将来計画及び運営方針 265 1977年に設置された分子科学研究所・電子計算機センターは,2000年4月より分子科学ばかりでなくバイオサイエ ンス分野の計算科学を含めた岡崎国立共同研究機構・計算科学研究センターに改組され今日に至っている。この間,一 貫して計算科学分野の学術研究発展の先導的な役割はもとより,全国共同利用センターの中心拠点として大きな貢献 をなしてきている。一方,計算科学研究センターを廻る環境は大きく変化しようとしている。その一つは2004年4月 から始まる独立法人化およびそれにともなう分子科学研究所および「岡崎国立共同研究機構」の「自然科学研究機構」 への再編成である。しかし,分子科学を基盤とする国内の計算科学の裾野をさらに大きくもち上げて,国際的に先導 的な研究の発信拠点としての役割と進展に何らの変更があるものではない。
5-4-1 現在の計算機システム
2003年12月現在の計算機システムの概要を下図に示す。図の左側は2000年3月に導入されたスーパーコンピュータ システムで,図の右側は2003年3月に更新されて山手地区に設置された汎用高速演算システムである。
5-4 計算科学研究センターの現状と今後
SGI SGI2800,Origin3800
cco2k1 32CPU cco3k1 128CPU cco2k2 32CPU
cco2k31 128CPU
日本電気
TX-7 64CPU
File Server
Frontend ccfep1 ccfep2
富士通 VPP5000 30PE 日本電気 SX-7 32CPU
汎用高速演算システム
スーパーコンピュータシステム
機構ネットワーク CISCO Catalyst
高速シミュレーション 日立 SR8000 6CPU
図1 システム構成図(平成15年12月1日現在)
266 将来計画及び運営方針
スーパーコンピュータシステムは,富士通製 V PP5000 と S GI 製 Origin から構成されている。V PP5000 は 1 C PU 当た りの最高演算性能が 9.6 Gflops のベクトル演算装置 30 台から構成され,各 C PU に 8 ∼ 16 GB の主記憶装置をもつベ クトル並列計算機である。一方,S GI Origin は 1 C PU 当たりの最高演算性能が 0.6 ∼ 0.8 Gflops のスカラー演算装置 320 C PU から構成され,1 C PU 当たり 1 GB の主記憶をそれぞれの C PU から共有メモリとしてアクセスが可能な分散共有 方式の超並列計算機である。V PP5000では高速なベクトル演算能力を活かした大型ジョブの逐次演算処理はもちろん, 例えば 8 台以上のベクトル演算装置を使った大規模なベクトル並列演算が可能である。Origin2800/3800 は Non Uniform Memory A ccess(NUMA )方式と呼ばれる論理的な共有メモリ機構を有する。NUMA は主記憶装置が各 C PU に分散し て配置されているため C PU から主記憶へのアクセス速度が非等価ではあるが,利用者プログラムから大容量のメモリ を容易に利用することができるので,大規模な並列ジョブの実行が可能となる。高速シミュレーションシステムの日 立製 S R 8000 は,主に機構内における利用を目的として運用されている。
一方,2003年3月に導入された汎用高速演算システムは,NE C 製 S X -7 で構成される主システムと T X -7 で構成され る副システムとから成る。NE C S X -7 は 1 C PU あたり 8.8 Gflops の最高演算能力を持ち,256 GB の共有メモリに結合 された 32 C PU の演算装置から構成され,総合演算性能 282.5 Gflops の共有メモリ型ベクトル計算機である。また,T X - 7 は 4 GB のメモリを持ち最大 4 Gflops の演算性能を有する C PU を 32 台搭載したノードを基本単位として構成されて いる。本システムは2ノードから成り,合わせて 64 C PU,256 GB ,256 Gflops の総合性能を有する分散メモリ型スカ ラー計算機である。このうち主システムは高速演算,大容量メモリを活用した大規模分子科学計算に用いられ,また 副システムは分子科学計算に加え,ホモロジー検索を主としたバイオサイエンス分野での利用に供されている。
本年度も約120の研究グループの600名にもおよぶ全国の利用者に共同利用施設として広くサービスを提供し,計 算科学分野の中核的拠点センターとしての役割を果たしている。一方で,世界の最先端研究をリードしこれを推進し ていくために,各研究室にあるワークステーションやパソコンクラスターはもちろんのこと,他の計算機センターで は不可能な大規模計算を実行可能とするために環境整備を行ってきている。
5-4-2 大規模計算のための環境整備
高速パソコンクラスターの普及などに伴って,計算科学研究センターへの期待と役割が最近変化してきている。こ のために,利用者の意見を広く集めて,魅力ある中核計算センターとしてさらに大きく発展するために,8月25日か ら9月8日にかけて,計算速度,ハード,ソフト,プログラムライブラリ,運用法,利用申請と利用報告等に関する 利用者アンケート調査を実施した。また,主な利用者にセンターに集まってもらって,意見交換会を開催した。これ らをもとにして議論を重ねて,これまでと比較してはるかに高度で便利な利用形態を目指して,2004年4月より運用 の抜本的な変更を予定している。詳細は http://www.rccs.orion.ac.jp/ にある。変更の主なポイントは,
(a)C PU 時間とメモリーの上限を大幅に緩和して,大きな分子の電子状態計算を可能にする。また,ディスク容量の上 限を大幅に緩和して,MD 計算の巨大データの保存を可能にする。
(b)大規模計算を高速処理するための並列計算キューを大幅に拡充する。
(c)これまでの特別申請を簡素化した特別利用キューを新設し,申請時に簡単な説明を追記するだけで,360 時間(16- 32 C PU,128 GB メモリー)もの長時間ジョブを可能にする。
(d)アプリケーション利用キューを新設し,機種に依存しない W eb からの標準入力で,最も利用頻度が高い Gaussian プ ログラムの効率的実行を初心者にも容易にする。
これらの変更により,これまでと比較して格段に大規模な計算が実行できることになる。例えば,HF /6-31G(d)法で,
将来計画及び運営方針 267 原子数 338,基底関数 4,238 の分子の S C F(21 回)+force の計算が T X -7(16 C PU)を利用して8時間48分で終了する ので,巨大な分子の理論研究が可能になる。今回の変更によって大規模な計算ばかりでなく,小規模な計算も効率的 に実行できるのも特徴である。
5-4-3 ナノサイエンス実証研究プロジェクト
2003年4月より「ナノサイエンス実証研究プロジェクト」が分子科学研究所と計算科学研究センターを中心にスター トした。この研究プロジェクトは,我が国にグリッド計算環境を整備することを主眼とする国家プロジェクト「超高 速コンピュータ網形成プロジェクト(NAREGI: National Research Grid Initiative)」のアプリケーション開発拠点とし
て,「グリッド計算環境を活かした計算科学をナノサイエンス分野で展開し,グリッド計算の有効性を実証する研究」 の推進を目的に5年間の計画で行われる。このプロジェクトは,我が国の産業技術の基盤を育成するための「産学連 携プロジェクト」としての性格をももっているのが特徴である。
本プロジェクトは,分子研,東大物性研,東北大金研,物構研,京大化研,産総研の6研究所を中心にして,いく つもの大学および企業からのナノ計算科学分野の第一線の研究者の参加をえて,我が国の計算科学の総力を結集した 取り組みになっている。具体的な研究課題と担当研究機関は,①機能性ナノ分子(分子研),②ナノ分子集合体(分子 研),③ナノ電子系(東北大・金研),④ナノ磁性(東大・物性研),⑤ナノ複合系設計(産総研),⑥総合ナノシミュ レーションシステム(産総研),⑦ナノ設計実証(産業界から公募)である。これらの課題研究を遂行し,その研究成 果を通じてグリッド計算環境の有効性を実証すると同時に,ナノサイエンス分野における統合シミュレーションシス テムを構築し,大学や産業界の研究者に広く公開することを目指している。
このナノサイエンス実証研究のために昨年度補正予算が組まれ,2004年4月に運用開始予定で,総理論演算能力が 10 T flops の大型計算機システムが導入される。計算科学研究センターでは,アプリケーション開発拠点としての研究 推進はもとより,事務局と計算機システムの運用という重要な役割を果たすことになる。このためにセンタースタッ フは現在万全の準備を行っている。
5-4-4 計算分子科学研究系の新設
自動車,船,飛行機,建物などを合理的に設計するためにはコンピュータでまず仮想実験をすることが早くからルー チン化されているように,物質科学はもとより生命科学分野でも,分子科学を基盤とする計算科学とコンピュータシ ミュレーションは,実験に並ぶあるいはそれ以上に有力で強力な研究法として今後ますます重要になる。これは,実 験では困難な条件もさまざまに設定でき,高速に多数回の仮想実験をクリーンにできるので,新しい機能をもつ分子 や集合体を精密・合理的に設計して反応も自在に制御できる。現在の計算科学手法は,比較的小さい分子系を精度良 く取り扱えるが,ナノスケールサイズの巨大な分子系の精度の高いコンピュータシミュレーションには飛躍的な進展 が望まれている。サイズの大きな分子系は,新規な構造,物性,機能,自己集合の宝庫である。このために,巨大な 分子系を精度高く高速に取り扱える理論と超並列演算やグリッド環境を駆使した高度な計算法の開発が,今後の計算 科学のきわめて重要な挑戦課題になっている。分子科学を基盤とするナノサイエンスおよびバイオサイエンスとの境 界領域において,世界の潮流の先端になるナノ計算科学を展開して発信していくことは緊急の課題である。このこと は,分子研の理論研究系の昨年度の外部評価でも指摘されていることで,従来の計算科学の単なる延長ではなく,新 機軸を切り開いていくための中核的研究推進体制と人材が求められている。ナノ計算科学分野の独創的な先端研究を 集中的に行うために,下記の計算分子科学研究系を分子科学研究所に新設することが煮詰まっている。
268 将来計画及び運営方針 (1) 計算分子科学第1
ナノスケールの分子並びに分子集合体の構造と動力学に関する計算科学の研究を行う。特に,分子の自己組織化 による構造形成の原理とその動力学を明らかにし,水中でのタンパク質や生体膜などの構造予測と,その構造に 基づいた動力学の解明のための計算科学的方法論を確立する。
(2) 計算分子科学第2
ナノスケールの分子並びに分子集合体の機能と物性に関する計算科学の研究を行う。特に,巨大分子系やその複 合体のもつ機能や物性および化学反応を合理的に設計して解析する計算科学的方法論を確立して,機能性新規触 媒や分子エレクトロニクス,分子磁性,機能性高分子などへの応用を目指す。
(3) 計算分子科学第3(客員部門)
超並列アルゴリズムやグリッドコンピューテイング手法を,量子化学計算,分子動力学計算,モンテカルロ計算 などへ適用し,大規模計算の最高演算ピーク性能を実現して計算効率の最大化を図るための情報科学的研究を幅 広く行う。
計算分子科学研究系の教官は,理論研究系(理論分子科学研究系と改名予定)の協力のもとに,21世紀の計算科学 の基盤となる理論と方法論の開発はもとより,計算科学研究センターの運営と発展に中心的な役割を果たす。上記の 研究の具体的内容はまだ暫定的であるが,分子科学ばかりでなく生命科学分野のナノ計算科学に新展開と大きなイン パクトをもたらすことになる。